立体感覚UP!(その2)
■ 立体イメージ力は”先天的なモノ”という冷めた見方もあります.が,ホントにそれがすべてなのか,立体感覚を豊かにするための”カイゼン”策はないのか,挑戦してみましょう.
■ 前回に続く円柱貫通体を扱います.合同な2本の円柱について,その中心線を直交させてできる重なった部分のことで,おおよそのイメージは次のようでしたね.ポイントは,①真上から見ると正方形,②真横2方向から見ると円 でした.
■ 特に,ワイヤーフレームで,②真横から見ると円に見える,のイメージが苦しいところです.
円柱を,角45°に開いた平面で垂直にcutすると,切断面はだ円になる
→ 下図から,その操作を振り返り,元の円柱(カマボコ状)と円(半円)をイメージしましょう.
精密な円柱貫通体
■ かつては,木や発泡スチロールを削ったりして円柱貫通体を作っていた方もいました.ここでは,かなり精密な作品(教具)を紹介します.
■ この円柱貫通体(直径10cm)は,10数年前,秋田県産業技術センターの内田富士夫さん(現,同センター開発部長)に製作をお願いして入手した”貴重品”です.
■ 内田さんは,3DCAD(3次元コンピュータ支援設計)の専門家であり,本作品は,3DCADでモデリングをして,ピッチ0.1mm(※当時ではハイレベル)の精度で光造形方式3Dプリンタを使用して製作をしたとのこと.
※この円柱貫通体は,教具として滑らかで十分な精度でできておりますが,’20.8現在,産業技術センターでは,さらに高性能なインクジェット方式のプリンタを保有しており,積層ピッチは,16 (or 27)ミクロンの精度まで上がっているとの話でした.
■ この「精密な円柱貫通体」を動画で紹介します.是非,雰囲気を味わってください.
円柱貫通体の体積
となりますね.
■ 体積に円周率πが入っていないのはなぜでしょう?円柱貫通体には曲面が含まれているのに,体積に円周率が入っていなのは不思議ですね.理由を考えてみてください.
教具としての円柱貫通体エピローグ
■ 製造工程が,積分の思考と同一
①円柱貫通体は真上から見ると正方形
②その正方形と平行な面で円柱貫通体を切断(スライス)すると,切り口はつねに正方形になる.
③ドロドロの液体プラスチックが入った容器に,紫外線を水平に当てて,ピッチ0.1mmのごく薄い正方形を瞬間凝固させる.それらを積層させることで全体を造成する.→ これは,区分求積法による積分のideaそのもの.
■ 左の画像は,円柱貫通体に真上から3本目の円柱を貫通させたときの立体です.正方形はどこにも見えなくなりました.
■ この立体ですが,内田さんに「もう1本,円柱を貫通させる立体は製作可能ですか?」と尋ねたところ,「さもないことです」とのご返事.ほどなく,この立体が手に入りました.イメージすること自体もかなり困難ですね.手作業による製作はまずムリ.
■ この立体に関する問題が東京大学理系入試に登場(‘05.2).
■ 内田さんとお会いしたときの会話から
→「この貫通体ですが,作りたくても作れない教具,こんな精度の高いモノはないです.進学校と称される高校や大手予備校だったら需要あります.私が責任者なら1万円出しても購入しますよ」
← 側にいた上司の方「すみません.原材料費だけでも2万円を超えますので」
→「・・・・・」
■ 右の画像は,バスケットの中にボールが入っているありふれた立体を示していますが,実は,そうではないのです!.
これは,内田さんが3DCADを用いて,「一度に・一体的」に作ったモノなのです.つまり,バスケットとボールを別々に作って,後からボールを入れたのではなく,”一度”に”いっぺん”に仕上げた作品です.すごい技術で,応用が効きそうですね.
「何のための教具か?」を問い続ける
■ 目的と手段を混同してはなりません.教具はあくまで理解のための補助役です.教具提示が目的化している例もしばしば見掛けます.
立体図形では,デッサン力を身に付けたいもの.この円柱貫通体では特に,ワイヤーフレーム図が要になります.イメージして,ペンを走らせる,消す,線を描く・・・この繰り返しレッスンを飛ばしてはいけません.指が・手が・腕が覚えるのです.
■ 入試を控えている中学生と高校生へ
高校入試までの図形に関する出題は,図やグラフがあらかじめ示される場合がほとんどです.ところが,大学入試では,図は自前で描くことが大半と覚悟した方がよいでしょう(図が与えられているときは,かなり「手強い」ことが多いかも).
したがって,素早く,図を書くことが肝要 → デッサン力は武器になります.その際は,図の大きさにも注意しましょう.一般に,図が小さいですね.
<追記>
■ 次回テーマは,「導入の○と×」です(予定).単なる導入技術と捉えることなく,教材自体の本質に根拠を置いた技術を目指しましょう.
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