cos135° が分かんないワケ
棒暗記はベツとして,三角関数は生徒にとって鬼門であり,第一歩である三角関数値でさえ半数以上(data根拠は後述)のヒトは分からない・あいまいなママにいます.

■ 図で円の半径は1とします(単位円).
このとき,端的に言えば,三角関数値とは,円周上にある点(P, Q…)のx,y座標を求めるだけの話なのです・・・
分かるヒト(数学リーダー含む)は
⇒ 「なぜこれが分からないのか」と首を傾げ,「分からないワケが分からない」と不思議にさえ感じます
分からないヒトは
⇒ 「角度と座標?」それぞれはワカル(つもり)けど,その両者を関連づけて答えるって何の意味があるの? 計算のようでそうでないような.第一,sin とかcos という記号が唐突すぎる
この両者のgapが三角関数を巡る不幸の原点です!
三角関数の定義
■ 三角関数の別名を円関数といいます(三角なのに円とは?!).

単位円周上の点P(x,y)について,∠POX=θ とするとき
x=cosθ,y=sinθ とする
これが三角関数の出発点です.
■ このシンプルなルール(定義)が少なからずのヒトを苦しめているワケを長年観察・調査してきた結果をお知らせします.
以下
角度・・・主に回転角θ(=∠POX)を指す
座標・・・単位円周上の点P(x,y)に絞る
とします.
要因1:「角度」は身近にない量
■ 巻き尺やクッキングスケールなどで長さ・重さは「身近にある量」です.車に乗ればスピードメーターで速さを実感できます.

■ 角度はどうですか?分度器を居間や台所には置いている家庭はまずないでしょう.θ=18°などという量は,学校以外では,設計事務所や工事現場,スキー場くらいでお目にかかる程度かと.
⇒ 極論すれば,大半のヒトにとって角度は,教室内,しかも,算数・数学の授業時内の限られた場面で出会う量です.
つまり,教科書内の量なのです.
■ したがって,θ=135° や 210°, -120° などと角を次々と提示されても「実感」を持ちにくいのです.
事態は甘くありません.例えば, θ=20°,30°,50°といった第1象限内にあるイメージしやすいであろう角度でも危ういです.
試しに,学校の階段の傾斜角を児童・生徒に問いたずねてみてください.

けっこうバラツキませんか?
30°~40°の範囲が多いと予想します.
⇒ スキー場で傾斜角30°の斜面の上に立ってみてください(※恐怖心を抱くヒトが大半です).
45°以上の声もあるかも
■ 以上のことから
①角度という量は,ほぼ教科書内に存在する量であると認識する(とあきらめる)
②したがって,学校教育では角度を体感する機会を意図的に設けることが必要である
③具体例(動点と動径の図示)

(1)θ=112°,120°,124°
作業:動点(P,Q,R)を打って動径をおおよそでよいから描く
以下同じ作業を課す
(2)θ=150°,160°,174°
(3)θ=220°,225°,238°
以下,略
※三角関数は連続関数です.一方,有名角は三角関数値が近似値ではなく正確に求まる特殊な角.これを利用しない手はありません.
したがって,有名角は一基準角として扱い,その前後の回転角θがどの辺りに位置するのか,角の「位置感覚」が身に付くまで毎授業時の冒頭数分間でレッスンをくり返したいものです.
あるいはグループ学習で互いに問題を出し合うのも効果的かと.
■ 経験則に基づきますが,効果のある手法は口頭試問とジェスチャー試問です.
例「aさん,角128°はどの辺りの角?」「第2象限の中間角の位置が135°なので,そこより少し小さく,120°を過ぎた辺りの角です」「なるほど」
例「bさん,あなたの目の前の空中に大きな単位円があるとして,角215°の動径の位置を右手で表してください」「おおよそOKです.なぜその辺りですか?」「210°が水平からやや下がったところ.それよりもう少し下がった辺り」「OKです」
「では皆さん目をつぶってください.角140°の動径の位置を右手で示してください.ハイ,どうーぞ.何名か大幅にずれていますよ」
要因2:座標の読み取りに不慣れ
■ 角度以上に苦労するのが,座標の読み取りです.
座標だよ?分かんないはずがないでしょ!⇒ いやいや盲点ですぞ

■ 試しに図(再掲)で,各点(P,Q~)の座標を答えさせてください.
かなり手こずっていませんか?
多くのヒトは,格子点,つまり整数で答える習慣が身に付いている中,小数を用いて近似値で答える環境下に初めて置かれています.不安感・抵抗感が強いと想像します.
図の例
やや粗く言えば
P(0.5,0.9弱)
R(0.3, -0.95)
■ 基準となる有名角に関連した2数値をしっかり身に付けるべきです.
次の2数です
1/√2≓0.71(≓0.7強で可),√3/2≓0.87(≓0.9弱で可)

Q1 図は半径100mの半円球ドームです.グランドの中心にいる人が地面から45°の角でドーム天井Pを見上げたとき,グランドからPまでの高さはどれくらいでしょう.
A1 何割かのヒトが50mと答えますが×です(→ 45°は90°の1/2, したがって,100mの半分で50mという流れ). 正解:100×1/√2≓71(m)
⇒ 1/√2≓0.71 と量的大きさのイメージで裏付けされた理解されていないからでしょう.ちなみに,sin30°=0.5 ですから,この誤答者は45°と30° を混同しています(45°というのはとんでもない急斜面なのです).
以上のことから次のような説明とレッスンが必要です.
三角関数定義をじっくり見る


■ 上図のⅠⅡともに三角関数の定義を示しています.
Ⅰ:定義そのものです.シンプルで「形容詞・ぜい肉なし」ですね.
Ⅱ:Pからx軸への垂線の足をHとして
sinθ=(符号付き)線分PHの長さ…図ではsinθ>0
cosθ=(符号付き)線分OHの長さ…図ではcosθ<0
とする内容です.
Ⅰのスマートさに付いていけないヒトにはⅡを薦めます.
理由は(以下,観察に基づく経験談)
①Ⅰ方式でy座標(sinθ)を読み取れないヒト,さらにx座標との混乱・迷いでつまずくケースを数多く見てきました.
②意外にもx座標は読み取れます.それは,座標を読み取る際,底辺OXとx軸が重なっているため,x軸上の目盛りをそのママ読み取ればよいからです(ところが,Ⅰ方式では線分PHがy軸と離れている!).
③つまり,三角関数値マスターの第一関門は,まず,sinθを徹底的に理解することです(その後にcosθを攻略すればよい).
実際のレッスン
■ sinθを読み取れないヒトは,動点Pのy座標を求めようと視線をPからy軸へ移動させているうちに,目がx軸と平行に動くためx座標と混同してしまうようです.そのため,肝心のPのy座標との違いがあいまいになりゴールに辿り着けず,三角関数値正答率が約50%というお粗末な結果になると考えます.
Ⅱ方式は,泥臭い・アナログ的な手法ですが,視点の動きが単純なため,迷いが半減します.
以上のことから次のようなレッスンをします.

Q2 sin135°,cos135°の値を求めなさい.
A2
①θ=135°に対する動径OPをほぼ正確に描く
②Pからの垂線の足をHとする
⇒ とにかく垂線の足を記すことが優先
③図のように,sinθ,cosθを書き入れる
④PH,OHの大きさ(符号付)から
sin135°=1/√2(≓0.7)
cos135°=–1/√2(≓–0.7)

※Q2 のような問いを10問程度クリアできれば,三角関数値に関しては大体「よし」となるでしょう.
最終的に,図を描かなくてもイメージが頭に浮かぶようになればベストです.
Q3 Q2の図で,sin(∠QOX) , cos(∠QOX)を求めなさい(概数で可).
A3 ∠QOX=α とする.
①Qからの垂線の足をKとする.
②図に,sinα,cosα を書き入れる.
③図から,おおよそsinα≓0.92,cosα≓–0.4 と判断できる
※△OQKかは直角三角形であるから三平方の定理が成り立っている(はず).
実際,(0.92)²+(-0.4)²=0.8464+0.16=1.0064≓1 である
<補足>
■ 三角比で扱う角は,0°≦θ≦180° なっていますが,三角関数の定義だけは先取りして360°まで扱うべきで,理解度は間違いなくUPします.
■ 昔々の話です.図Ⅱの方式で三角関数値の口頭試問を毎授業終了時に実施しました(一人3問,2問以上○でパス).半年後の全国模試ではほぼ全員が三角関数値を正答しました.
■ 三角関数値正答率について
①cos5/3π:41%(H25 埼玉県高校数学科標準テスト)
②cos135°:52%(R5秋 ある県庁所在地に立地する公立高校)
③tanπ/3:78%(ある国立大学理工系学部新入生確認テスト)
①~③ともに,履修直後ではなく,数ヶ月以上時間をおいてからの調査でした.①②→弧度法ではなく60分法であれば,三角関数値の定着の度合いは50%弱かと.ただし,この中には関数値棒暗記も含まれていますので,実際の「ナットク感を持っている」ヒトの程度は40%前後と見ております.
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■ 次回テーマは「その用語,子どもに伝わっていませんよ」(予定)です.
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