その説明、通じてないかも
■ 算数・数学の授業で用いられる語を分類すると
①:発達段階を基に理解できるであろう日常語(メタ言語):大きい、重い、広い …
②:特有の専門用語や記号:式、商、関数、相似、≡、Σ …
③:①と②の境界にある語や用語:または、かつ、少なくとも …
となります(島田茂氏による)。
■ 今日、学校の授業においては「協働的な学び」の空気が列島を覆っています。
子ども同士の学び合いにより価値を見出す流れですが、数学リーダーの言葉の役割・責任の軽視になっていないかヒジョーに不安です。
■「子どもに話が伝わってない感じがする」「説明の仕方に自信が持てない」等々の声は昔もありました。今は? ないはずがありません。
本blogでは②③については多少なりとも取り上げてきましたので、ここでは①の「日常語」に焦点を合わせてみます。
数学以前の”メタ”理解の調査
■ 昔³のことですが、知り合いの先生3名に協力をいただき、用語一般についての調査を実施しました。その後、県高校進学率はアップし、子どもを取り巻く言語環境も大きく変化しましたが、この調査結果は今日でも通用していると考えます(より深刻な状況かも)。
一部を紹介します。
対象:A県内3高校1学年110名(3校の入試における数学平均値は全県平均値とほぼ同じかやや下回る)
<結果>正答率(正解は※の番号)は、各Q上から順に
47.3% 35.4% 68.2%
でした。
この結果をどう見る?どう活かす?
■ 最先端分野で活躍している数学者ならば、「世界共通の言語」たる数学が対象ですから数学記号だけで互いに学び合えるかも知れませんが、一般のヒトはそうはいきません。算数&数学を学ぶときはそれぞれの国・地域の言語で 説明↔理解 していくことになります。
■ その際、日常語としての理解(ナットク)がベースになります。
その視点で上記の結果を見てみます。正答率の低さに驚いたのでは?
特に2番Qの正答率35.4%はかなりのショックではありませんか。
■ 2番Qは三段論法になります。
■ 三段論法の例
・動物 は いつか死ぬ(寿命あり)
・パンダ は 動物 である
・ゆえに、パンダ は いつか死ぬ
2番Qと同じ構成文ですね。
このように
p → q 、a → p ゆえに、a → q
が三段論法の一骨子になります。
■ ここで留意したいことは、2番Qについて
三段論法を習っていれば正答したはず
という解釈は、的外れでしょう。
⇒ 「論理」以前の、日常語としての日本語が「正しく・適切に伝わっていない」、つまり、2番Qの主張について意味理解が不十分 と判断すべきです。
■ 突然ですが、次は生命保険約款の一部です。
■ 感想はいかがでしょう。アンダーラインの箇所は保険料の払込みを免除する大事な箇所ですが、直ちに仕組みを理解できるヒトはどれくらいいるでしょう。
※ 約款には、保険の補償範囲や保険会社が責任を追う範囲などが記載されています。したがって、漏れと矛盾がないようにするため、”小文字ビッシリ”の厚い文書となるワケ
約款を見ると ケッコウです!・ノーサンキュー と後ずさりして、契約書に目くら判を押す(目くらサインする)ヒトが大半かと想像します(me too)。
■ 何を言いたかったか・・・
約款を前にしたときと同じような心理状態で、数学の説明を受け止めているヒトがいる!
という事実です。
「約款より数学の解説ははるかにラクでしょ」⇒ そのとおり。しかし、分からないヒトにとって程度の違いはどうでもよいことで、どっちも分からないのです。
繰り返しますが、2番Q(三段論法の初歩の初歩)正答率が35%とは・・・
3番Q正答率68.2%は何を物語る?
■ 3番Q(「県北部の高校生ならば県内の高校生である」の真偽)のやや高い正答率(68.2%)に注目!
⇒ 背景を探ることでカイゼンへのヒントが得られるかも知れません
A県の実情
- 全県を3地区(県北部・県中央部・県南部)に分け、市町村の枠を超えたくくりにしている(慣習上?)
- 高校では全高校を{県北・中央・県南}の地区分けをして、各種会議やスポーツ大会・コンクール等もそのくくりで実施される
■ したがって、A県の教員や高校生にとって次のような連絡や会話は「ごく日常」なのです。
「中央地区校長会が本校を会場として実施される」
「明日から3日間、県北総体(地区総合体育大会)のため午前中で授業は終了です」
「県南総体の陸上競技で、本校の○さんが100m走で大会記録を出した」
「県北地区吹奏楽コンクールで金賞となったので、全県コンクールに出場できる」
・・・
■ このように
3番Q(「県北部の高校生ならば県内の高校生である」について
① 県北部の高校生 → 学校内で日常的に見聞きしていることから、県北部を、リアルにイメージしている
② 県内(全県)の高校生 → (全県)=(県北)∪(中央)∪(県南)
は日常的に見聞きしている。それにより、(県北)が(全県)に含まれていることを、リアリティをもって理解している
③ よって、3番Qは抵抗感なく「正しい主張」と感じられる(判断できる)
2番Qの「引っ掛かり」は何か
■ 2番Qを再掲します。
- 「A県人は ねばりづよい」とします
- あの人は A県人だ
- あの人は ねばりづよいか?
<3番Qとの比較>
・3番Qは、”自分ごと“としてリアルに解釈できる記述でしたが、2番Qは、”自身とやや離れた“内容
・それゆえに、日常体験に裏付けされた経験による後押しが期待できない
・特に「『A県人はねばりづよい』とします」について、A県人の中にはそうでない人もいるだろう、とか、隣県人もねばりづよいそうだ等の、本文と外れた言い分(雑音)が入っている向きもありそうですね。
■ つまり、1.「…とします」の箇所が、これまで自身で体験したことがないステージだったので、文面だけでは主旨がイメージできなかったと考えられます。
カイゼン策
■ 以上のことを踏まえて、算数&数学のリーダーに、次のような「覚悟」をお願いします。
一般に、ヒトにとって未体験の場面や状況はイメージしにくいもの。算数や数学では学年が上がるにつれて増えていきます。
- したがって、教材研究の中で導入と称する部分の大半は「場面のイメージ化」としてよい
- その際、操作活動の取り入れやIT技術による豊かな画像や動画で対応する手も散見するが、ヒトの脳細胞まで響くかどうかは吟味が必要(リーダーの自己満足で終始しなければよいが…)
- 解説…「保険約款」のような説明・板書になっていないか、常に警戒を怠らない
例:指数の導入時説明
「2を10回かけると・・・そうだね、1024になります。これを2^10と書きます」
といった説明では、平々凡々な導入であり反面教師例です!
⇒ 2^10=1024の大きさ・手強さを体感させるべく、A4用紙を半分ずつ10回折る作業に挑戦させる。10回折ることはまず不可能であり、1024が大きい数であることを身をもって知らしめたい。その上で指数の定義へと進む・・・
<補足>
■ 次回テーマは「遠藤章氏偲ぶ会より」(予定)です。
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