遠藤章博士と”教育”

この6月、コレステロール低下剤スタチンを発見された遠藤章博士がご逝去されました。ノーベル賞以外は”全ての賞”を受賞した(米ラスカー賞など)と評される遠藤博士ですが、”教育”の視点で話題を提供します。

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生誕地:東北秋田の片田舎、出羽丘陵に位置した(旧)下郷村

高 校:県立本荘高校定時制課程下郷分校入学(2年次に秋田市立高校に編入学。後述)

※ 時代が異なるとはいえ、高校定時制課程の分校入学者が、その道の「世界的権威者」となったことについて、ご本人の努力に加えて学校教育の果たした役割にも注目したいもの。今の時代に欠けている「何か」を感じますので。


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■ 遠藤博士は、農家に生まれ、幼少期より山野・田畑が舞台でした。山菜・キノコ・家畜・米・カビ等と日常的に接した体験が、その後の研究の土台を形成しました(遠藤章博士顕彰会会長 佐々田亨三氏による)。

■ 下郷分校で若き理科教師:小松順之助氏と出会います。氏について地元紙は次のように紹介しております。

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※小松順之助氏:後年、県立由利高校長、旧由利町教育長を歴任

■ 向学心に燃える遠藤氏の将来を見通し、小松先生は周囲を説得して秋田市での学びを勧めました。

しかし、当時は、県内には厳しい学区制があり、特に秋田市内では高校編入学の壁はかなり高かったと想像します。編入学を許可した秋田市立高校(現、県立秋田中央高校)の「慧眼」に敬服するのみです。

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■ 次は、遠藤博士が少年時代に抱いたとされる疑問(一例)です。

Q ハイトリシメジはハエを殺す毒を持っている。しかし、みそ汁にするとヒトはおいしく食べられる。なぜだ?

遠藤少年は身近にある「不思議」に興味関心を抱き、かつ、周囲は彼の知的好奇心を最大限尊重したのです。

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■ さて、時代は変わり、昨今の授業についてです。

ITや空調など教室環境は比べようがないほど進化しました。

中教審答申「個別最適な学びと協働的な学び」に、国内外教育の歴史を踏まえた崇高な理念を感じますが、各論に相当する学校授業の様子はどうでしょう。

①教師のコンパクトな解説、②グループ学習、③各グループからの発表と意見交換、④各自振り返り(シートの提出)という「授業形態」論の支配する空気が、校内に・地域に・各研究会に蔓延していませんか?

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■ 誤解を恐れず言えば、教室内が「形ありき・形優先」で足並みが揃えられているため

  • 最大公約数的発言が重視される(無難な発言)
  • 少数意見・声は出しにくい(≓排斥)
  • グループ内力学察知能力が自然と身に付く
  • 失敗や独自性が敬遠されるため長いものには巻かれろ精神が助長される 

⇒ 深刻なことに、これらの傾向は学年が上がるほど強くなっていると見ております。

■ では、授業形態ではなく、子ども一人ひとりの知的好奇心の伸長度にフォーカスを当ててみます。

本blogでもテーマで紹介しましたが

分数を形にした(形が見えた)小6生Tさん

1000まで書き続けた小1生aさん

③そして、日常の不思議さの解明を追究し続けた遠藤少年

このような子どもの疑問や向学心は、上記「授業形態」の中でどのように対処されるのでしょうか。

仮に、遠藤少年が今日の教室に席を置いたとします。おそらく「浮いた存在」になり、軽くあしらわれる、あるいは無視される可能性が高いと予想します。

「そりゃ地方の分校で極少人数だから遠藤少年へのケアも厚かっただけだろう!」との声もありそうです。

⇒ 論点がズレています。そこじゃないのです

■ 昨今の「授業形態論」を否定しているのではありません。世は変化し、教育論もしかりです。

例:数十年前に生活単元学習が一世風靡しましたが、諸事情により廃れました

授業の形がどうであれ、教育の普遍目的は「子どもを伸ばす」こと、しかも、それぞれの・一人一人の子どもが対象です。テストで全体の平均値を上げることは「結果」であり、目的にはなりません。

■ 遠藤少年の師・小松先生を念頭に教師の役割を挙げます。

  1. 子どもが発する疑問や反応から「才」を見抜く力とセンスを磨く
  2. ともに学ぶ・学び合うスタンスを身に付ける

上記1,2の実現は極めて困難で、到達ゴールもありません。不断の努力(≓教材研究)が必須です。

※”学び続けている教師”って、子どもには分かるんです小学低学年生でも感じ取っていますよ。自身を振り返って思い当たる節がありませんか。

■ 「失われた30年」と言えばイノベーションにおける日本の遅れを象徴することばですが、近年における学校教育の在り方がその一因かも。その際、昨今の画一的かつ形式的「授業形態」にも話が及ぶだろうと思います。なぜなら突出した人材の発見・伸長に関心が向かないシステムだからです。

<補足>

■ 私事です。かつて下郷分校閉鎖の手続きを担当し、小松先生宅にも訪問をして状況を説明しました。その折、遠藤氏についていろいろ話された記憶にあります(遠藤博士がまだ世に知られてなかった頃)。

※分校の閉校の決定後、事務方と相談して、それまでのくみ取り式トイレを簡易水洗トイレに変えました。「くみ取りのママ、閉校式を迎えるのですか!」とやや声高に主張して(自省を込めて)。

■ 次回テーマは「NHKローカルニュースから」(予定)です。

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