’24大学共通テスト数Ⅰ・A (第2問)への疑問
‘24.1実施の大学入学共通テスト(数Ⅰ・A)第2問[2]について解説&疑問を述べます.
■ 実際の第2問[2]を一部紹介します。
(中略)
(以下、略)
リード文(式の定義)の分かりにくさ
■ (ⅲ)[あるデータのある選手のベストタイム]の定義式について私見を述べます.
a) 連体語「ある」が2回続けて使用され,特に,前者「あるデータ」が何を指すのかあいまい
b) 定義式自体がいかにも「天下り」記述で,全体として唐突な印象を受ける
c) 「…zの値を比較し,その値の小さい選手の方が優れていると判断する」とあるがその理由が示されていない
どこかに根拠はあるにしても,この際「本問のルール」と割り切って計算し続けた受験者がかなり多かったのではないかと推測する
⇒ その場合,正解に至ったとしても,出題のねらいや意図も分からないママの正解で「よし」とする国主催のテストとは何ぞや?
小中高を貫く視点に立つ作問を!
■ ある選手のベストタイム:x,そのデータの平均値:m,そのデータの標準偏差:σ(シグマ) とすると,定義式は次の①になり,続けて変形すると②が得られます.
■ ある製品の重さや長さ等の測定値、テスト得点など数多くdataを集め,それらを座標上にプロットすると左右対称のつりがね型グラフになることが知られています(正規分布曲線という).
通常,平均値m付近が最も高い値になりますね.
上図で,曲線で凹凸の境目を変曲点P,平均軸mとPとの距離を標準偏差σ(シグマ) といいます.
σ はdataの散らばり度合いを示しています
⇒ 工場規格品などではσの値をできるだけ小さくするよう生産体制に目を光らせるワケです
■ ①式から zスコアを読み取って「…zの値を比較し,その値の小さい選手の方が優れていると判断する」とナットクするのはなかなかハードかと.
そこで,②式で考えましょう.
■ 上図はデータAや数学のテスト点数など,一つの分布における様子を示しています.この場合は単純に数値X1,X2を比較して「優劣」が判断できます.
本問の場合、マラソンデータですから軸mより右側にある値は平均値mより大きい(遅い!),左側の値(-が付く)はその逆となるワケです.つまり,値の小さいほど(左に寄るほど)「優れている」選手と言えます.
■ では、データA,データBについて,平均値,標準偏差ともそれぞれの値が異なる場合で考えてみます.
マラソンタイムよりも,A:数学テスト得点,B:英語テスト得点として考えた方がリアルでしょう(この場合、右に寄るほど好成績になる).
ある高校生が実力テストを受けたところ,数学64点,英語70点でした.さて,この結果をどう受け止めるべきでしょうか.確かに英語の方が点数は高いのですが…
上図で,X1,X3 を②式(x-m)/σ で変換します.
X1→ およそ2 ,X3→ およそ1.7
⇒ 各得点と平均値との離れ具合を標準偏差σ,σ’ の「いくつ分」として数値化したということです.
つまり,数学64点,英語70点で得点自体の比較では英語の方がよいわけですが,それぞれの科目内での”平均からの離れ具合”を標準偏差を1単位として測ると,数学の方が受験者全体の中では”よい位置取り“をしていると理解・解釈できます.
単位量あたりの数値計算は小6から
■ 変換式
z=(x-m)/σ
についてですが、この式の源流は小6まで(教科書によっては近い例が小5で)遡ります.
例(小6算数)
$\frac{3}{4}m²の壁を\frac{5}{8}dl で塗れるペンキがあります.$
$このペンキ1dlで何m²塗れますか.$
$⇒ \frac{\frac{3}{4}}{\frac{5}{8}}=1.2 となりますが,$
$\frac{5}{8} を1単位量としてみる考え方になります. $
変換式:(x-m)/σ の応用 ⇒ 偏差値
■ やや評判のよろしくない(悪名高い)偏差値ですが,’60年代中頃に日本人によって開発されました.数学的には「優れた」公式だと考えます(悪名が立ったとすれば運用側,つまりヒトに問題がある?).
■ 改めて冒頭に挙げた共通テスト本文ⅲ「あ」文を見てください.
前述しましたが,この式は,変換式:z=(x-m)/σ ③ の分母を払ったものなのです ⇒ 分母を払うと,上式 x=m+zσ ④ となる
変換式z=(x-m)/σ ③には,小6以降,学んできた数学的思考が読み取れます.
しかし,共通テスト本文ⅲ リード文④は,③を飛ばして提示されたもの.同値とはいえ飛躍が過ぎます.
⇒ 偏差値zの定義式を
「x=m+σ(z-50)/10 を満たすzスコアを偏差値という」
としたらどうですか(これも同値式).何の意味か伝わります?
昨今,読解力の向上とかで問題が長文化し,読み取り時間不足の中,数学的思考とはほとんど関係ないところで受験生に不要なストレスを与えた出題だと思います(底意地の悪さ?さえ).
実際の長距離での公式記録を出題のdataとした発想はユニークでしたが、データAとデータBは同一種目マラソンの記録であり,zスコアをそれぞれ求めることに必然性がなく,「問題のための問題」と感じました.別教科のテスト点数の分布のようにベツモノの比較を問う内容とすべきでした.
※共通テスト後,各模範解答例を眺めましたが,見た限り,本文の定義式に沿った解説でした.
<補足>
■ 問題の長文化とマークシート方式の組み合わせはサイアクではないでしょうか?ひたすらゴールへのショートカットをたたき込ませる学び!!「問題解決能力も大切だが,問題発見能力は未来を創る」・・・誰かの言葉か忘れましたが,学びの原点に戻りたいものです.
■ 次回テーマは「可哀想な公式」(予定)です.その働き具合と比べて「地味な」公式ってありますよね.
■ にほんブログ村ランキング(数学教育)にかかわってバナー↓のclickをお願いします(宣伝が多く恐縮です).
■ もう一つ.「ブログみる」の紹介ブログ村制作のblogを見るためのアプリです.世は正に情報過多の時代.しかし1日は24時間しかありません.できるだけ良質のブログと出会いたいものです.ブログ村が総力を傾注して立ち上げた
に関わっていきましょう.