印象度が低く,可哀想な公式

数学の公式・定理にもいろいろあって,三平方の定理などは横綱クラスでしょう.中には,貢献度はサイコークラスなのに地味なヤツもいます.レ・ミゼラブル…

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Ⅰ {f(x)+g(x)}’=f’(x)+g’(x) 

■ 要するに,関数の和の導関数=それぞれの導関数の和 ということです.

⇒ 変数xを省くと,(f+g)’=f’+g’ となる.学ぶヒトにとっては極めて分かりやすい公式でしょう

⇒ (f+g+h)’={(f+g)+h}’=(f+g)’+h’=f’+g’+h’  となり,4関数以上でも同じ

例:とある数学指導者Aさんの解説から

「この公式の証明ですが,教科書にあるとおりで常識的な結論ですね.たとえば,y=x³+x²+3 のときは、公式より(x³+x²+3)’=(x³)’+(x²)’+3’=3x²+2x  となります.これは楽勝

← こんな調子で大丈夫?

<何がモンダイ?>

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■ 公式Ⅰ (f+g)’=f’+g’ が成り立つことが、ごく当たり前 という雰囲気が教室内を覆っている様子です.

⇒ Aさんのスタイルは,公式解説の際,”当たり前”を根底に計算方法のみに力点を置くタイプ.一事が万事、いつも同じようにして教科書を説明しているのでしょう

■ Aさんに習い続けたヒトは,たとえば

sin(θ₁+θ₂)=sinθ₁+sinθ₂ ,(f・g)’=f’・g’ 

という式を見せられるとナットクする可能性が高いと予想します.

※ 正しくは

⇒ 前者: sin(θ₁+θ₂)=sinθ₁cosθ₂+cosθ₁sinθ₂ ,

⇒ 後者: (f・g)’=f’・g+f・g’ 

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Ⅱ a:b=c:d ⇔ ad=bc

内項の積=外項の積 ということで小学校算数以来,なじみある比例計算公式です.計算ミス以外、間違うことはない!と思う方も多いかと.

例:下図で,高さABを求めてください(図の角は正しい値ではありません).

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■ AB=10m と答えるヒト,必ずいます.

つまり,13:26=5: 10 と考えたようですが,よくある間違いです.変化=比例 と信じて疑わない困ったビョーキですね.

⇒ 底辺の長さ:a , AB=x, として、tan13°≓0.23=5/a ①,tan39°≓0.81=(x+5)/a ② この連立方程式を解くと,x=(約)12.6m

■ 「対角と対辺が比例する?」何と勘違いしたのでしょうか?

⇒ 「中心角と弧の長さとの関係」とゴチャになったのでしょう

次の図で,中心角:∠POQ=26°, ∠QOR=52°,また,それぞれの中心角の対辺をQ’P,R’Q’ とします(R’はかなり上方.図からはみ出している).

このとき,円弧の長さ L1, L2について

確かに,L1:L2=26°:52°=1:2 が成り立ちます.

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しかし,対辺 Q’P:R’Q’=1:2  は当然成り立ちません(R’は図から外れるくらい高い位置に).実際,θ→90°のとき,tanθ →+∞(θ:第1象限)となるので角と対辺は比例しません.

Q 上図で,中心角と弦の長さは比例しますか?

つまり,26°:52°=1:2=弦PQ:弦QR

が成立つでしょうか.(解答は後述)

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Ⅲ 多項式P(x)を x-a で割ったときの余りは,P(a) である(剰余定理)

※ 本公式は「地味」というより”突然・意外”過ぎるタイプかも.

例 P(x)=x³-5x²+3x-2 を x-2 で割ったときの余りRは

 R=P(2)=8-5×4+3×2-2=-8

⇒ 天下り式に剰余定理を紹介し,例題で確認・・・というパターンです.学習者にとって本定理を学ぶ必然性を示していればよいのですが.

■ 余弦定理やΣk²公式などは,「やさしい顔」しておりませんので,公式適用をする際は,それなりの「慎重さ・覚悟」を持ってコトに当たるでしょう.

「地味」公式も同じ発想でコトに対応させましょう.2例挙げます.

Ⅰ {f(x)+g(x)}’=f’(x)+g’(x)

例 (x³+x²)’ を計算する際,Ⅰ公式を用いず計算すると次のようになります.

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上式で,Ⅰ公式を使えば2~5行目までを一気に飛ばすことができ,時間と思考の節約になるのです.

この体験を一度は味わう・味わせることが極めて重要です.

「ホラ,このⅠ公式があるとないとではとんでもない差がありますね.Ⅰ公式に感謝

多少の時間はかかるとしても,その労力を理解することが次へのステップアップに繋がります.

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Ⅲ 多項式P(x)を x-a で割ったときの余りは,P(a) である

例 x⁹-5x³+3 を x+1 で割ったときの余りを求めなさい

(剰余定理の導入時あたりの場面を想定します)

実際に筆算で挑戦してもらいましょう.

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■ 図は割算の途中です.結構時間がかかるものです.

「ところで,今日の授業の最後には,ほぼ10秒ぐらいで即答できるようになります.その武器は,剰余定理といいます・・

⇒ こういう労力をかけてこそ公式や定理のありがたさ(御利益)が分かるのです.学ぶ姿勢につながります.

Q の答

比例しません.一般的な証明も可能ですが,反例を一つ挙げればよいでしょう.

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■ 図で∠POQ=45°, ∠POR=90° とします.

もし,「円周角と弦(の長さ)が比例する(※)」と仮定すれば,PR=2PQ となるはず.しかし,明らかに, PR<2PQ(=PQ+QR) .よって,※は成り立たない.

<補足>

■ 公式で使用される記号は,最高程度に洗練され,必要かつ最小限の表現で登場します.その際,そのスマートさに「ごまかされる」こともあります.時には泥臭いプロセスも大切にしたいものです.

■ 次回テーマは「同様に確からしいってヘンな日本語だ!」(予定)です.まぁ直訳ですので仕方ないのですが・・・

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