タブレット教育への不安 ⇒ 素材で勝負!
今や「タブレット画面全盛」期です.が,不安も大です.実際,IT先進国スウェーデンからは「紙と鉛筆」への回帰が報じられました(’23).ここは,”タブレット vs 紙・鉛筆”という二項対立論に陥ることなく「よい素材の発見&開発」に注力しましょう.
例えば,数学と物理の共通部分に属する重心は実に使い勝手ある素材です.これを教室内でフル活動させる意義は充分あります.
Q1 下図のようなL字形の重心Gを作図してください.また,Gを支点にしてL字形全体のバランスをとって水平にしなさい(解答は文末).なお,L字形は均質材料からなり厚さは一定とします.

■ ところで重心とは何でしたか?
重心とは:物体の各部に働く重力をただ一つの力で代表させるとき,その作用点を重心Gといいます(小学館デジタル大辞典による).
重心 ⇒ 思考実験・背理法の入門
Q1 重心は1つであることを説明してください.

A1 ある物体の重心が2つあったとし,それらをG1,G2とする.
物体の重さをWとすると,重心G1,G2において下向きの力Wがそれぞれ働いている.
線分G1G2 の中点をMとすると,Mにおいて下向きの力がはたらいているが,その合力は2Wとなる.
これは物体の重さがWであることに反する.したがって,重心は1つしか存在しない.
■ 上記解答について
①実験器具を使用することなく,頭の中で推論を重ねて結論を導いています.正に,思考実験の典型です.
②解の冒頭で,「仮に重心が2つあったとする」と仮定し,結論として矛盾を導いています.正に,背理法の典型です.
⇒ 思考実験や背理法は名称からして仰々しく,大上段に構えての導入となりがち.であれば,身近にあってナルホド感を展開できる素材の発見・開発に努めなければなりません.重心は格好の素材になるとお薦めします.
重心 ⇒ 存在定理入門

■図のように,均質材料からなる厚さ一定の紙で作った適当な図形Sを周辺部の1点から糸で吊り下げて静止した状態です.
Q2 物体Sの重心Gは鉛直線L1(吊り下げヒモ)上にある(存在する)ワケを説明しなさい.
⇒ 重心Gがヒモ上のどこにあるかはこの段階で不明のママ.※Gが作図できたり,計算で求められるケースもある.
A2 物体S全体の重さWは作用点であるGから真下向きのベクトルの大きさで示される.同時に,Wはヒモの吊り下げ点から真上向きのベクトルの大きさ(張力)でもある.

■ もし,重心GがL1上ではなくS1側にあったとすると,これら2ベクトルが一直線上にないため.この図の場合,物体Sは反時計回りの回転運動する.これは「静止」と反する.よって,2ベクトルは一直線上にある.つまり,GはL1上にある.
⇒ 釣り合っているとき,S1とS2の面積は等しい.なぜなら厚紙が均質で厚さが一定であるので重さと面積は比例する,また上記回転運動の説明から明らか.
存在保証 ⇒ 実際にGを求める
■ 重心Gがある,そして,1つしかない という結論は実に強力・強烈ですね.

■ 図のように,別の端点からSをひもで吊してその鉛直線をL2とする.先述したように,重心Gは,①L1上に存在,かつ,②L2上に存在する
⇒ これらを満たす点は,L1とL2との交点のみ.つまり,交点が重心Gと決定(Gは1つしかないので)
■ この操作(作業)の面白い(不思議?な)ところは
① L1,L2 ともに任意,つまり,周上のどこを端点としても(穴を開けても)Gは作業者全員一通りに決まる!ということ
② 吊るすヒモは2本でよい,つまり,3本以上のヒモを用意してもすべてGを通るので不要!ということ
⇒ これらのナットクのためには,存在 の意味,背理法の基礎,論理の pかつq の理解がベースになります.小学生や中学生に挑戦させることで,質の高い予習が自然に成り立つワケです.
冒頭のQ1の解答です.
A1

■ L字形を2つの長方形S1, S2に分ける.それぞれ長方形の対角線の交点が,S1の重心G1, S2の重心G2となることは明らか.
■ 重心G1を通る直線をL1とすると,Q2の解説からL1によって長方形S1の面積は2分されることがわかる.L2についても同様である.
■ L字形全体の重心Gを求めよう.
長方形S1の面積を2分する直線L1は,G1を中心に自由に回転できる.L2も同じ.そこで,互いに重心を通るように回転して調整する(その直線をLとする).
S1,S2の重さは等しい(面積が同じなので).よって,線分G1G2の中点がL字形全体の重心Gとなる.

※1 作図から分かるように,本問の場合,重心Gの位置は図形外になる. したがって,Gにヒモを付けて全体の水平バランスをとることはやりたくてもできない(→ 50円玉の重心と同じ).
※2 「水平バランス」はとれないが,せめて様子だけでも・・・と,次のような教具を作ってみました.

■ 重心G1とG2間に細い絹糸を張り,中点を重心G(赤丸)としました.
確かに,GはL字図形外にあります.
そこで,Gにフックをかけて下げてみたところ,何とかバランスが取れた様子が次の図です.

<補足>
■ 重心については,’22/5/15 でも扱っています.今回と重なっている部分もありますが,視点を変えて小中高のつながりを強調しました.
■ 次回テーマは「場合の数が”有限”なら全部確かめる手もある」(予定)です.まぁ「腕力」に頼っての進め方ですが.
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