マークシート方式の功罪

全国規模のマークシート方式テストが本格実施されて約半世紀近くなりました.今では保護者はもちろん,先生もマークシート世代です.いまさらですが,染み付いた「マーク」を話題にします.

「マーク」をざっとおさらいする

■ 加熱する大学入試の改善として1979(昭和54)年に共通一次テストがマークシート方式(以下,マーク式)で実施されました.背景には,大学入試について,①合否が1回だけのテストで決定していること,②範囲外からの出題や難問・奇問の出題の指摘 等の要因がありました.

■ その後,諸事情により大学入試センター試験(’90~2020), 大学入学共通テスト(’21~)へと名称・形を変えながらもマーク式自体は維持されて今日にいたっています.

穿った見方ですが・・・

■ かつて(正確には共通一次の前まで),東大入試は,答のみの穴埋め式1次試験で受験者を絞った上(足切り)で,記述の本試験が課せられていました.今日の目を以てしても素朴で合理的なシステムだったと思います.

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■ 共通一次テストの国内原型はおそらくこの東大システムにあったのでしょう.

■ 穴埋め→マーク式になったこと以外で変えた・変わってしまったこと

①「足切り」ではなく各大学の判断による点数配分としたこと,②難易度も上がり本試験並の準備が必要となったこと,③業者による猛烈かつスピーディーな自己採点集計による各大学の序列化が進んだこと

マーク式の功

■ マーク式の「功」を3点挙げます.①大学の入試事務全体の省力化,②比較的良質な出題により,高校における授業水準と質の維持向上に寄与,③受験生が0点を取ることはまずない

①について,マークシートによる採点ミスはほぼ0です(別試験ですが,200人の答案をヒトと小型マーク読み取り機械で比べたことがあります.10件の違いがありましたが,すべてヒューマンエラーでした).なお,失礼ながら大学人の出題力は落ちていると思います.

②について,普段の授業を振り返るよい刺激をもらったことが多々ありました.一例:「三角関数の合成」は通常,sin関数で合成をします.当然,cos関数でも可能なのですが,そこを突かれました.つまり,合成を本質ではなく形式で学びを進めてきたセンセイはざめました(一事が万事…).

③について.仮に4択で30問のテストとします.1問ごとの誤答率は0.75で,30問すべて間違うのは, 0.75の30乗≓0.00018 ⇒ ほぼ0%です.←満点を取るよりも難しいかも. 

マーク式の罪

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■ マーク式は,正解が4個前後の選択肢の中に存在することを前提にしていますので,消去法が本質といっても過言ではありません.学習指導要領が唱える崇高な精神と反していませんか.

「分からないときは,1番と4番は外せ.数学は,②か③をマークせよ」みたいなアドバイスが世にはびこっています.

■ 数学は他教科と違いがあります.解答欄が数字と文字選択による塗りつぶしであり,選択肢の幅がグッと増え,単純な消去法は成り立ちません.ただ,解答の桁数が示されていることが決定的なヒントを与えております.

例:x=□□ ⇒ xは2桁の整数.もし,x=125 となったらそれは計算ミスを表す.やり直し

■「最初と最後は外せ」みたいなアドバイスが”効く”学力とは何でしょうか.処世術の推奨かと.

よりによって数学で計算ミスを教えてくれるテストなどあり得るのか? 読んでいる途中で「なお,このヒトは犯人ではありませんよ」とささやいてくれる推理小説と同じです

中教審答申との整合性

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■ 中央教育審議会答申「個別最適な学び&協働的な学び」の理念とマーク式による問いかけ方との整合性がすっきりしません.

■ 識者は言うでしょう.「崇高な教育理念と1テスト方式あれこれとは次元が違う話でしょ!」と.

しかし,高3生のうち約半数近くが志願するという大学入試共通テストの実態を踏まえると,この「出口」と無関係に学校教育は成立しません.たとえば,数学教師がマーク式を意識せず日々の授業をこなすことは現実的ではありません.

マーク式導入後のノーベル賞受賞者数

■ 話が飛躍します.日本における自然科学系ノーベル賞受賞者は,25名(外国籍を含む)です.

このうち,共通一次導入後の受賞者は,調べた限りでは ’15受章の梶田隆章氏(物理)一人のみです.

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■ これは研究実績の評価が定まるには年数がかかるからという背景(つまり,高齢になってからの受章)もありますが,他国の例では50歳代前半での受章もあるので,これからの推移に注目しましょう.

■ もう1点.昨今,学業・スポーツで全国をリードしている中高一貫校ですが,これまた調べた限りでは,いわゆる有名私学中高一貫校出身の受賞者は’01受章の野依良治氏(化学)一人です.つまり,大半の受賞者は公立高校出身です.今後は受賞者が輩出されていくにしても,このバランスの悪さは気になります.

背景には,医学部医学科への進学熱が高すぎることも一因(主因?)かと.特に,少なからずの数学オリンピックメダリストが医学科に進んでいる模様です(公表されていない?).この点については他国の実情も知る必要があります(もしかすれば日本特有の現象かも).国の科学技術振興全般に関わることなので,これこそ政治家の出番です.日本学術会議云々より喫緊の課題です.

■ 私たちの骨の髄まで染みこんだマーク式システム適応教育が,極めて重要な能力を削いできたのではないかと感じている昨今です.

 

<補足>

■ マーク式に関連して気になっている点をもう一つ.少なからず(大半かも)の教員養成系学部は,共通テスト得点で合否がほぼ決定します(→マーク式のウエイトが高い).推薦合格者はその傾向がより強まります.

■ 次回テーマは「文字当てゲーム」(予定)です.数学を「リアル」にする術として話題にします.

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