医学科への一極集中を憂う
■ 当方,年相応に”お医者さん”のお世話になっており医師には感謝に堪えません.その現実を踏まえた上で本テーマを設定しました.
昨今 ・・・特に平成中頃から・・・「医学部医学科指向」の高さは異常・異様です.その弊害がそろそろ見え隠れし出したな…と懸念しております.
そんな折,過日,我が意を得たりの思いをしました!
月刊「文藝春秋」(‘23.12号 以下,文春誌)は,このママ医学部人気が続けば日本は衰退すると「警告」したのです.
あの医学界を正面に直球勝負の問題提起をした印象です.

「文春誌」の警告+私見
■ 以下,私見も加えて文春誌主張の一部を紹介します.
(1) 活気のある国ならば将来を担う世代の人材・頭脳は新しい分野に向かう.
日本も明治維新以来(太平洋戦争前後の時期は例外か),平成の前半までそのような航跡を辿ってきた.
(2) 今日の日本では,将来の日本を牽引すべき新たな分野に必ずしも優秀な人材が向かっていない.最近では官僚機構にもその傾向が出始めた.

(3) 人材の卵が集まる高校・大学で,文系では外資系を含む金融機関を向き,理系では医学部人気が圧倒的.研究者やエンジニアではない.
金融,医療等が重要な分野であることは事実.しかし,しかるべき人材がこぞって目指すべきではない.
(4) 優秀な理系人材が医学部を目指す理由は端的に言って,確実に 儲かる 職の典型だから.今日,「価値ある」国家資格の代表が医師免許である.教員免許など比べるまでもない.
医師の年収は日本人平均年収を大きく上まわり(開業医で年収約3000万円,勤務医は約1500万円),リスク回避的な若者・保護者にとっては合理的な選択肢
(5) 人材が医学部に偏在しないようにするため診療報酬が見直されるべきである.若者個々人の選択について云々しているのではない.制度の問題である.
デジタル分野で遅れをとり,コロナ対応のワクチンが国内で生産できなかったことは私たちが認識した重苦しい現実だった.それは「氷山の一角」で象徴的現象と受けとめなければならない.

(6) 他国の様子も知る必要がある.前述したように,今日の日本では医師資格は「絶対的地位」を保障するライセンスであるが,世界中でも同じか,というとそうでもないようだ.日本のように”憧れる職業”筆頭の国ばかりではない.
ある著名な外科専門医の話を紹介する.例えば東欧では医師の社会的地位が日本ほどではなく,その結果(問題発言になりうるが)女性医師が多いとのこと
地方のある公立高校(いわゆる”進学校”)の様子
■ 10年近く前,地方のある県立進学校で耳にした話

① 高校入学時,理系希望の生徒のうち,その大半が医学部医学科志望
⇒ もちろん,医学科は「超・狭き門」のため卒業時には現実的な選択がなされるが,その場合も個々の生徒に「しこり」が生涯つきまとう可能性大
② 医学部医学科の学校推薦型選抜(地域枠)を念頭に,「大学入試センター試験(現共通テスト)8割+α」の得点を目指す生徒の増加
⇒ 日々の学びでは,マークシート方式が根底に置かれている.つまり,4~5択問題を踏まえた消去法がフル活躍する学び方で,創造性醸成とは真逆の学習法
③ 医学科で導入が必須となった面接だが,その対策の一環として特別活動やボランティア活動に参加する生徒が増加
⇒ 生徒会活動希望する生徒の増加.生徒会執行部のなり手探しで苦労していた平成一桁台のころとは隔世の感がある.率直に言えば”邪道“選択
医師免許に数学は必須か?

■ 医学科の個別試験ではかなり”手強い数学”が課せられます(特に,東大理Ⅲの空間図形問題は今も昔も”鬼門”).
■ 医学研究の最先端では学際的になっており,統計学はじめ数学は必須ツール・理論であることは推察できます.
■ ここで,マークシート式医師国家試験450問(’23)を俯瞰しての”素人”感想です
⇒ 次々と瞬時に回答するスピードと広範囲に亘る医学知識の蓄積が必須であることは分かる
⇒ しかし,医師の資質として”数学の難問を解く能力”が必須とは思えない
■ 関連して,数学や物理等オリンピックについてです.

■ 少なからずのメダリストが医学科に進学しているようです.メダリスト故にすべて方面に”万能”であり,元々医学志望のヒトが数学オリンピックに挑戦してみたというケースもあり得るでしょう.
が,一般的に言って,彼・彼女が持っている飛び抜けた理数センスと医師という職が直に結びつきません.
■ 以上のことから医学科受験時の難問数学の役目は
① 合否を判定するためのdata提供科目
② 情報公開制度浸透のもと,不合格者に対する説得材料科目
であると結論付けましたがいかがですか.
医学科だけが注目されるのか,他の資格取得でも同様のことが言えるだろうとの反論もありそうです.では視点を変えてみます.
ノーベル賞に思うこと
■ 自然科学系ノーベル賞ですが,日本では真鍋淑郎氏(物理,’21)以来,2年間受章が途絶えています.

■ これまでの日本人の自然科学系ノーベル賞受賞者数は25名です.
(1) そのうち,大学入試にマークシート方式が導入された以降(’79共通Ⅰ次試験~)の受賞者は,梶田隆章氏(’15, 物理)一人のみかと.
⇒ これまでの受賞者のうち24名はマークシート方式導入前に学校教育を受けていたことになる.研究評価には年数が必要であり,高齢化が伴うからだという見方もできるが,海外には50歳代の受賞者も少なからずいる.
(2) 受賞者25名のうち,いわゆる”超“中高一貫校出身者がかなりの割合を示すだろうと予想されますが・・・1名のみ.
⇒ 大半は,地方の公立高校出身
⇒ これまでのところ(この先は分からないが),①地方にあって極端に医学科指向が高くない,②公立高校出身者 の方が,伸びしろがあるためかノーベル賞には距離が近いと判断される
以上,医学科志望の偏りとマークシート方式思考の弊害 により,人材育成に関して日本は苦境に立たされている(自分で自分の首を絞めている) と考えています.
<補足>
■ マークシート方式については,当blog で過去にupしております.↓
■ 推理小説の冒頭で「犯人は{〇,△,◇,▽ }の中の一人です」と知らされたとき読む意欲は失せませんか.マークシート方式テストは同じ構造です.
■ 次回テーマは「常識を疑う」(予定)です.
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