キャッシュレス化と算数

ケータイの普及は電話番号暗記を無意味にし,カーナビの浸透は方向感覚を弱体化させました.さて,キャッシュレス化の流れはどんな影響を与えるでしょうか.特に,算数関係者が留意すべきことを話題に挙げます.杞憂に終わればよいのですが.

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十進法理解の決め手は通貨だった?

■ 本テーマの結論ですが,「算数・数学の基本の基である十進法(→今後10進法と書きます)を理解し,その仕組みを身に付けようとするとき,日本の通貨は実に大きな貢献をしている」ということです.

⇒  { 1円,5円,10円,50円,100円,500円,1000円,5000円,10000円 }

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特に,太字(紫) が基幹通貨で,10倍ずつの値となっていて極めてシンプルですね.

■ 諸国の例との比較

イギリス(’71まで):1ポンド=20シリング,1シリング=12ペンス……20進法,12進法,10進法が混在

⇒ 20までは固有表現…11:eleven, 12:twelve などは20進法の名残

アメリカ:1/4 が基本感覚.25セント硬貨4枚が1ドル(10セントや5セント硬貨は補助的な存在)

オーストラリア:さらに複雑

<注意>上の解説で用いた数のうち,20, 12, 25 など自体が既に10進法で表現されています.話が混線してきますね.

じゅうさん を 103 と書く子どもがいて当然

■ 「9の次の数を,じゅうといって,10 と書くのですよ~」よく教室で見かける光景です.

このように,幼少期では算数に限らず「習うより慣れろ」という色彩が濃いですね.数認識も発達段階からして「習い事」のイメージです.

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■ 「12の次は13と書きます」まではよしとして,数日後に

じゅうさんと書いてください」としたとき,何人かの子どもは

103

と書いたり,書きそうになります.

じゅうさんを103と書く子どもの存在 ⇒ 貴重

■ じゅうさんを103 と書いてしまうことに関連してクラス内の理解度を推測してみます.

①正しく理解して13と書く……約10%,②習ったとおりに13と書く……約75%

③103と書いたりする……約15% 

大人も含めて,ヒトビトの多くは②のパターンではないでしょうか.つまり,習うより慣れるという感じ.

■ したがって,③パターンの子どもが「ワカッタ~」と声を出すことが,②パターンの子どもの認識を変えるきっかけになるかも.

②は,”暗記得意”,  “結果だけ欲しがる” 族に多く見られます(言い過ぎか).

江戸時代だったら,じゅうさん⇒103 で正解かも

■ 江戸時代のヒトビトに「せんひゃくじゅうさんを書いてください」と言えば,「千百十三」とするでしょう.

すると「じゅうさん」も,10が十, 3は三ですから,⇒ 103 でいいじゃないか!となります.

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■ 和算で用いた数表記は,耳で聞いたとおりの漢数字を順に書き連ねます.

ただし,10進法と異なり,十や百,千などのように,新記号を次々と“発案”し続けなければなりません.

例:10進法で百は”100″と書きますが,用いた0と1は新記号ではありません.このように10進法を取り入れたことにより和算宿命の「新記号無限発案」は不要となります.

111の意味をじっくり読み直すと…

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■ 上図が10進法の仕組みを端的に示しています.同じ1が3つ並んでいますが,位置により意味が異なります(位取りという).

⇒ 左から順に,10²,10¹,10⁰(=1)の係数を示しています.

100円玉,10円玉,1円玉 の個数(枚数)がそれぞれ1ということ

通貨の優位性

■ 10の位について,教科書や学習書の多くは,「束」やグループを用いた説明がなされています.

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■ ペン10本, あるいは石10個を 1束(ひとまとめ)と考えてカウント表示する方法です.

つまり,例えば「(束二つと三個)分のペンがあったとき,23 と書くのですよ」と教えます.

■ 最初はこれでよろしいです.

しかし,できるだけ早い段階で,束から通貨へのシフトをお薦めします.

束と通貨との違いは何でしょうか?

⇒ 束は,大人が作ったイメージです.ペン10本をまとめたモノなんて,家中にありますか?必要性がないのです.

したがって,子どもにとって,束は,テキスト上だけで接するモノ(図)に過ぎません.

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通貨はどうでしょう

■ 幼児でも買い物の様子に興味津々です.あえて買い物させる保護者もいますよね.

10円玉6個では変えないスナックも,100円玉2個なら買えておつりももらえる…こんな生活体験は日常です.

つまり,幼児にとって,100円玉は実在し,実態があるワケです.手で触わり,重さもだいたい分かります.

100円は10円の10ヶ分であることを,知らず知らずのうちに身体で覚えていきます.

■ このように通貨は,ペン10本束とは比べようもないくらいのアドバンテージを持っていますね.

算数・数学のリーダーはこの潜在力を使わない手はありません.

13を 103 と書いてしまう子どもにどう対処?

■ グループ学習で,要領のよい子が速攻で説明し,他の子も「いいで~す」といったイイネ反応で全体をリードしたとしても,10進法の仕組みがスッキリできない子にナットク感が浸透する保証はありません.

■ 数の作りである10進法の最初で躓くと,後々に大きな影響を与えること必至です.

お風呂の中で幼い子どもが100までの数を数え上げたからといって数の仕組みが分かったとは必ずしも言えませんね.

ここは,長期戦になる覚悟でジックリと子どもと向き合いましょう.

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■ 13を103と書く,あるいは,表記に迷いを持つ子どもは決して少なくないと見ております.

■ 図Ⅰ,Ⅱのように,現物の通貨を用意して,

じゅうさん円はどっちなのか

あなたの書いた103円 はどちらを示すのか

結局,じゅうさん はどう書くのか

について,じっくりと考えさせたいですね.

■ 10進法とは,自然数を10のべき乗の和(降べきの順)で示すときの,各べき乗の係数を並べた表記になります.99999円以下の金額で言えば,各通貨(10000円,1000円,100円,10円,1円)の個数が相当します.

⇒ 例:54321円=5・10⁴+4・10³+3・10²+2・10¹+1・1

■ さて,ここまで教材・教具としての通貨の「すばらしさ」を熱く語ってきました(のつもり).

しかし,この通貨が日常から姿を消しつつあります.

→ 新聞購読者が激減し,新聞紙自体を知らない小学生が出ています.

→ アナログ表示の時計が少なくなり,「あと20分くらいで着く」という大ざっぱな時間把握が苦手なヒトもチラホラ.

キャッシュレス時代の到来.算数・数学の基本の基が脆くなり,分かる子・分からない子の二極化が一層拡大する可能性は大です.

何かしら有効な対応策を練りませんか? 

<補足>

■ 次回テーマは「”外分”でつまずく」です(予定).つまずくってことはdata的にもハッキリしています.

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