スーガクへの怨嗟①(例 平行移動の式変形)

「怨嗟(エンサ)」は少しオーバーでした.しかし算数・数学の解説で,どこかあいまいさ・モヤモヤ感が残り,積もり積もってエンサとなることはあり得ます.実際「問題を解いていくとそのうちワカルよ」などと根拠の薄い弁解しながら先へ進む授業光景も散見されます.

 

09 20230612平行移動1

■ 先日,twitter上で見つけた一例です.

関数y=f(x)のグラフをx軸方向にp平行移動したグラフの式は,

y=f(x-p)

となります.y軸方向も同様.

⇒ 何で,xp となるのでしょうか?x+p ならばナットクなのですが…

という主旨でしょう.

「ガチガチ」の証明

■ 次は,(たぶん悪名高い)証明です.

09 20230614平行移動2
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数学に”恨み”を持つヒトからの声

■ 数学がわかるヒトにとっては,何に引っ掛かっているのか?と思う”声”でしょうが…

(1) 最終行で「Xをxとする」とあるが,こんな勝手なことができるのか?

また,いろいろな場面で出てくる「x軸上のx」ってというのがそもそもスッキリしない.

(2) 1行ごと論を追っていくと正しい数式が並んでおり展開もそのとおりだとは思う.しかし,全体としてのナルホド感がなく,結局,平行移動 ⇔ 逆符号 を棒暗記している.

一応の答え

(1) Xをxとする ⇒ 「Xを x と書き換える」という言い方が適切だと考えます.

ギリシア文字xは変数の象徴です.どうしてもというなら, xは別文字で表現してもよいワケ(例:aやpなど.ただ,これらは定数として登場することが多い).したがって,xと区別するため一旦Xとしたのちに,誤解がないならXを x と書き直しても構わないのです.

特に,関数を扱う場合,点(x,y) は,xとyの間に成り立つ関係が本質で,別の文字を使用しても関係式が一致していれば同一関数となります.

例:放物線 y=x² を b=a² と書き直しても放物線自体は変わりません(ただし,a,b座標軸にして).

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(2) 証明自体はどう工夫しても先程の内容とほぼ同じになります.

ピンとこない,なるほど感がないということなので,具体例で補足します.

図は,y=x²+1 のグラフをx軸方向に3平行移動してできるグラフの式が, Y=F(X)=(X-3)²+1 であることを示しています.

ここで,F(3)=(3-3)²+1=1

よって,f(0)=F(3)=1 ① 

つまり,F(3)を求めようとすると,f(0)の値と一致する

X=3 とすると,x=0 のときのf(x)の値と一致する

⇒ 一般に,すべての点においてXに対して3引き戻されてxとなる

逆に見ると,グラフy=f(x)をx軸方向3平行移動したグラフ Y=F(x)の式は

  Y=F(x)=(X-3)²+1

つまり,y=(x-3)²+1 となります.

平行移動の式変形は「一貫」させる

09 20230615平行移動5

■ 平行移動の変形は,すべての分野で通用する・させるべきものです.

例 単位円x²+y²=1 をx軸方向p, y軸方向q 平行移動する.

⇒ x → x-p , y → y-q とすればよいので

(x-p)²+(y-q)²=1

となります. 

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例 放物線y=ax² をx軸方向p, y軸方向q 平行移動する.

⇒ x → x-p , y → y-q とすればよいので

yq=a(x-p)² ①

ゆえに,y=a(x-p)²+q  ②

※ 一貫性に欠けメーワクな指導解説

「y=a(x-p)²+q を放物線の標準形と言います.頂点は(p, q) で,p,qに付いた符号が異なることに注意してください」

平行移動⇔逆符号 と暗記していたヒトは混乱すること必至です

解説の一貫性という視点からは,放物線の標準形は

yq=a(x-p)²  ①

とすべきです.少なくとも②が定着するまで①は再三登場させましょう.

<補足>

■ 確かに「x軸上のx」という言い方は気になりますね.もし,日本が世界の文明の中心であったなら「あ軸上のあ」となったかな?!

■ 次回テーマは「点と直線の距離公式」(予定)です.受験数学には必須の公式ですが,根号・絶対値がつき,かつ,分数形式ですので近寄りがたい公式の一つ.

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スーガクへの怨嗟①(例 平行移動の式変形)” に対して4件のコメントがあります。

  1. ぷりくら、TMえぼりゅーしょん より:

    「ガチガチ」の証明 のところ
    「証明」で、文字を書き換えて「Xをxとする」とやるからダメなのかもしれない。「証明」でなければ問題は少ないでしょう。ではどうやるか?
     まず、移動前、移動後という言葉を使うものとします。右に a, 上に b 平行移動するものとします。
     移動前 P(x, y), 移動後 Q(X, Y) とする。
    x+a=X, y+b=Y
    で、移動前が
    x=Xーa, y=Yーb
    ①式 y=f(x) に代入して、Yーb=f(Xーa)
    ここまでは従来通り。
     ここで、「証明」でなく「推測」として、
     ”文字を書き換えた式 yーb=f(xーa) が成り立ちそうだ。”
    とやる。
     その後、「証明」を以下のようにやる。今度は、移動後を (x, y) とする。移動後の情報は無いが移動前の情報ならある。移動前は、(xーa, yーb) であり、これらは、関数 f でつながっている。そこで、この f によるつながりを書くと、yーb=f(xーa) になる。これは、推測の通り。
     以上のようにすれば、「移動前がどうだったか?」が逆符号に対応するのが見えるので、少しはマシになるかもしれません。移動前、移動後というのが、キーワードになると思います。
     この話は、私も以前から気になっていました。

    1. kishiroot より:

      ぷりくら 様
      コメント,ありがとうございます.
      ・末尾で「以前から気になっていた」との記述がありましたが,問題意識が共通していたことに心強くしました.
      ・改めて読み直しましたが,確かに「Xをxとする」の箇所は論理がなく飛躍というか雑な言い方だと感じます.
      移動前,移動後の経過時間を入れた説明は説得力があり,ナルホドと合点がいった次第です. 
      ・本文の後半で指摘しましたが,①関数式では変数間の関係が本質であること.②使用文字については,文字の自由性に柔軟に対応すること(≒慣れる)を述べたところでした.
      今後ともよろしくお願いします.

      1. ぷりくら、TMえぼりゅーしょん より:

        一寸、補足。
        「移動前は、(xーa, yーb) であり、これらは、関数 f でつながっている。」としましたが、移動前の関係式を、y=f(x) のままにしておくと、やはり問題。関係式の文字 x, y が移動後の点の文字 x, y と同じで紛らわしい。そこで、移動前の関係式 y=f(x) を、
           座標の第2成分=f( 座標の第1成分 )
        と読み替えることにしておこう。
         そもそも、文字 x や y に2つの意味があるのでややこしいのです。慣れてくればわかるようになるのですが、この話題を扱うのが高校入学間もない時期で、生徒がまだ慣れていないというのが大問題ですね。

         さて、日曜朝の犬猫アニメ「わんだふる ぷりきゅあ!」はこの1月で終わります。2月からは新番組「キミとアイドルプリキュア♪」が始まります。早く見ないと「わんだふる ぷりきゅあ!」は終ってしまいます。1月5日(日)の放送は、第47話「あけましてガオウ」です。是非ご覧ください。

        1. kishiroot より:

          ぷりくま 様
          再コメント,ありがとうございます.
          効きのある解説表現が紹介されており,同様の思い(悩み)をもった数学リーダーへの支援になります.
          数学において,ヒトに伝える際「ややこしい」箇所(※)の対応に苦慮していますが,マーク式の定着とともに,答さえ合えばよいとする層の増加(推測ですが,多分合っています)により,(※)対応が一層難しくなっています.深刻なことに,「ややこしい」箇所の存在すら「気付かない」リーダーもいないわけではありません.
          まずはお礼まで

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